先日、某所で「ぼっけえ、きょうてえ」などと並び、おすすめホラー小説として挙げられていた夜市。思えば、読んだ事のある小説を覚えている限りで挙げるととても少なくて、
初恋 (角川ホラー文庫)
リング (角川ホラー文庫)
らせん (角川ホラー文庫)
ループ (角川ホラー文庫)
残穢 (新潮文庫)
と、ホラー小説ばかりです。(残穢のレビュー「映画「残穢~住んではいけない部屋~」公開前に原作小説を読んでみました」はこちら)
そんな僕ですが、AmazonのKindle・Android版で夜市を読む事が出来たのでレビューします。この本は「夜市」「風の古道」の2作からなる小説ですが、これが面白かった。
日常に隠れた異世界の入り口
千と千尋の神隠し然り、怖い話の異世界モノとして有名な「きさらぎ駅」然り、異世界モノの怖さは日常に潜んでいる非日常ではないでしょうか?普通に生活している中で、ふとしたはずみに違う世界に足を踏み入れてしまう。なぜ?どうしてこうなった?という自分の意志ではどうにもならないあの怖さです。
今回ご紹介する小説は「夜市」「風の古道」共に異世界での体験のお話です。さて、その内容は…?
小説「夜市」 読書所要時間:約1時間
物語の和風ホラーな雰囲気が最高
「今宵夜市が開かれる。」このフレーズだけでワクワクが止まらないんですが、夜市では色々な妖怪や人間(?)達が怪しげな物ばかり売っています。
【あらすじ】大学生のいずみは高校で同級生だった裕司に誘われ、夜市へと出かける。道中で話を聞くと、裕司は小さい頃に夜市を訪れており、それが今夜も開かれることを学校蝙蝠からきいたという。一旦は呆れて帰ろうとするいずみだったが、公園の奥にある森で、夜市は本当に開かれていた。
黄泉の河原の石、なんでも斬れる剣、老化が早く進む薬……それらを売っているのは、永久放浪者に一つ目ゴリラ、のっぺらぼう。いずみは帰ろうとするものの、裕司ともども道に迷ってしまった。いくつもの出店で帰り道を尋ねるが、「何か取引をしない限り、夜市から帰ることはできない」という答えが返ってくる…。(Wikipedia)
文章から情景がリアルに浮かんできて、夜市に自分も迷い込んで一緒に商品を物色しているような感覚になれます。夏祭りでの夜店はワクワクする物ですが、夜市には賑やかな笑い声も笛の音もありません。ただただ静かに、そしてどこまで歩いても出口に着く事なく店は続いています。
上記にあるように夜市に入った者のルールは、「必ず何か買い物(取り引き)をする事」。裕司は一体何を買うんでしょうか?そして、いずみは何を買うんでしょうか?
その後のそれぞれの人生を思うと、物語の終わりは切ない。ホラー小説というジャンルではありますが心霊系ではありません。幽霊にビックリさせられる事もないのでそうゆうのが苦手な人にもおすすめできる物語です。
小説「風の古道」(読書所要時間:約2時間)
少年が体験する夏の日のファンタジー
正直、夜市が読みたかっただけなので「風の古道」には全く期待していませんでした。実際しばらく読まずに放置してましたし。
が、実は表題の夜市よりも「風の古道」の方が面白かった。ホラー要素もあるんですが夏の異世界ファンタジーというか。物語の中核になるのは妖怪ではなく一応人間なんですが、こちらもとにかく切ない。
【あらすじ】7歳の頃迷い込んでしまった不思議な道。見知らぬおばさんが「夜になったらおばけが出るから気を付けて」と教えてくれた道。
少年は数年後、好奇心からその道に友達を連れて再度足を踏み入れてしまう。しかしそこはこの世であってこの世でない場所。入ってはいけない場所。そこで出会った青年「レン」に出口までの案内をお願いするが…。
ところどころで2つの作品がリンクする
夜市とリンクしている描写が何度か出てきます。「なんでも売っている場所」や「永久放浪者」などです。あぁなるほど、永久放浪者とはそうゆうことかと納得するでしょう。こうゆう「世界線が繋がる」感じ、いいですね。ネタバレになってしまうので物語を深くは書けませんが、入ってはいけない異世界の入り口に入ってしまった2人の少年が出口を探すまで…と思いきや、物語は数日間の旅路へと意外な方向に向かっていきます。
古道の世界観、そしてその世界の住人である「レン」の秘密。グイグイと引きこまれてしまいました。
東京都日野市も登場
古道の出口は日本のいたる所にあるという設定ですが、出口の1つとして日野市が登場します。日野市と言えばプレイステーションのゲーム「夕闇通り探検隊」の舞台にもなった個人的にはホラーの聖地的存在です。
小説とは関係ないゲームですが、「夕闇通り探検隊」は色々と権利の問題もあって再販されない伝説のゲームです。ホラーではあるんだけど、人の噂話から各ストーリーがスタートするので、どちらかというと人間の闇に焦点をあてたゲームだったように思います。当時日野市のマップ付きで持っていたのに売ってしまったのが本当に悔やまれる…。今現在のAmazonでの価格は4万8千円。買えるか!
映画化の話も持ち上がったみたいですが…
夜市は円谷プロでの映画化が過去に発表されたみたいですが、話が全く進んでいないみたいです。出来れば世界観を出すのが難しい夜市よりも風の古道の映像化がみたいところ。
映像化するなら実写ではなくてアニメの方が合ってるような気もします。サマーウォーズみたいな感じで映像化して欲しいなぁ。「風の古道」は大人子供問わず色んな世代が見れる内容だと思うので、ぜひ映像化の話を進めて欲しいものです。
今回ご紹介した「夜市」は、第12回日本ホラー小説大賞の受賞作でもあり、直木賞の候補にもなった作品です。長編ではない小説なので、夜市と風の古道合わせても3時間あれば読めます。ぜひ読んでみてはいかがでしょうか?