みなさんには趣味はありますか?
また、その趣味は生涯をかけて突き詰められる物ですか?
僕にはそこまでの趣味はありませんが、世界には生涯をかけて突き詰めた人がいるものです。それを人は「変人」と呼びますが、果たして本当に変人と簡単に呼んでいいものなのでしょうか?
今回は、僕が愛して止まないアウトサイダー・アート(特に芸術の伝統的な訓練を受けておらず、名声を目指すでもなく、既成の芸術の流派や傾向・モードに一切とらわれることなく自然に表現した作品のこと※wikipediaより)変人トップ3のお話です。
第3位:歪んだ愛情で女性と暮らす城を作ったエドワード・リーズカルニン
アンビリーバボーでも取り上げられた事のあるマイアミの「コーラル・キャッスル(珊瑚の城)」を作ったエドワード。
約30年を費やして、たった一人で造り上げた城は愛する女性と暮らすための場所でした。
10歳年下の婚約者との結婚式前日、エドワードは一方的に別れを告げられてしまいます。 婚約者は当時16歳。エドワードは失意の内に故郷を離れ、国境をも越えて暮らし始めます。
しかし、婚約者を忘れられないエドワードは、ある時閃きます。 「そうだ、ここに素晴らしい城を作ればいい。そうすれば婚約者は自分を見直して必ず自分の元に戻ってくるに違いない」 この時点でちょっとイッちゃってる感がありますが、エドワードは1100トンもの珊瑚や巨石を加工し組み上げていきました。 自宅周辺に目張りをし、作業が見えないようにしながら。
出来上がったコーラルキャッスルは評判を呼び、エドワードの死後マイアミ市が元婚約者を招待しよう!と招待した事があったそうです。しかし… どう考えても迷惑以外の何物でもなかったのでしょう。断固拒否されてしまいます。 それもそのはず。約30年も造り続けた怨念も嫌でしょうし、コーラルキャッスルの中には「妻へのおしおき部屋」や、「妻の両親を早く帰すために座りにくくしている椅子」などが珊瑚を加工して作られている狂気を感じる代物でした。 元婚約者がコーラルキャッスルを見る事は結局なかったそうです。
さて、ここまででもすごいんですが、更にすごいのは「どうやって作ったのか不明」という事です。 重機を使った形跡もなく、手がかりを一切残さなかったので色々な噂を呼びましたが、本人は「古代のバランスの技術を使った」と言ったくらいのようで、どう作ったか未だに全くの謎です。 アンビリーバボーでは「僕には天文学の知識がある」と言ったと伝えていたようにも記憶しています。
重さ9トンの1枚ドアも指1本で開く事が出来るほど。
その作り方も分かっておらずその卓越した技術を歪んだ愛情に使うのではなく情熱として他の事に使っていれば…。元婚約者がエドワードを見る目も変わったんじゃないかな?と思いますがどうでしょうか。 約30年間も造り続けた情熱と根気は、変人を超えた物がありますよね。
第2位:石につまずいた郵便屋、フェルディナン・シュヴァル
歩いていたら石につまずく。 そんな誰にでもある事で一生が変わったのがフランスのオートリーヴに住んでいたシュヴァルです。
郵便配達夫として働いていた彼は、ある日いつもの通り道で石につまずきます。 普段なら何気ないことが妙に気になったシュヴァルは、その日の仕事が終わるとつまずいた場所まで戻り、石を掘り返しました。 掘り返した石を見て何故かシュヴァルはその石に魅力を感じ、虜になってしまいます。
その日からシュヴァルは30kmもの郵便配達をしながら道中で石を探し、仕事が終われば石を拾って回る生活を送り始めます。 片田舎の村での事。突然毎日石を積み上げ始めたシュヴァルを見て、周りの人々は彼を変人呼ばわりし馬鹿にします。 しかし彼はなんと43歳から33年間も孤独に石を拾っては積み上げました。造り上げた建物は「理想宮殿」と呼ばれ巨大な物に仕上がりましたが、建築家でもない彼は海外の絵ハガキや空想から建物を造り続けたというから驚きます。
娘と息子を病気で失い、さらに妻も病気で失ってからも情熱は止まらず、宮殿に墓までも作りました。シュヴァルは自分が造り上げた場所に家族を埋葬したかったようですが、宗教上での理由から教会や村人に猛反発され諦めざるを得ませんでした。 更に自分の墓を造る事を決めて、理想宮殿の横に小さな(それでも大きい)建造物を作ります。全てを造り上げて2年後、シュヴァルは亡くなり永遠の眠りにつきましたが、希望通り遺体はその墓に埋葬されています。
理想宮殿が出来上がった後、村人は理想宮殿を目の当たりにして驚きます。建物も、そしてシュヴァルへの評価も変わり色々な所で賞賛されて今ではフランスの文化財にまでなりました。あのピカソも感銘を受け絶賛したとか。
彼は理想宮殿の色々な所にメッセージを書きましたが、その中で一番好きなメッセージを紹介します。
「理想宮殿はたった1人の村人が建てた。誰にでも出来ることだ。 もし私よりもやれる。そう思ったなら、今すぐ始めろ。」
今の世の中はパワーストーンが人気ですが、石に魅せられる人はなぜ石を積み上げるんだろう?毎日1つの事をコツコツと続ける忍耐力、馬鹿にされても気にしない精神力の強さ…石にはそんな力があるんでしょうか。
シュヴァルは、情熱と何かを始めるにあたって、年齢は関係ないという素晴らしい一例だと思います(変人ではあるけど)。
ずっと前から、僕が海外で一番行きたい場所は理想宮殿です。
第1位:孤独な部屋で壮大な物語を綴ったヘンリー・ダーガー
誰しも1度や2度は空想の物語を頭に思い浮かべた事があるでしょう。ノートに書き留めた事もあるかもしれません。しかし多くの人はすぐに止めてしまい、続ける事の出来た少ない人だけが小説家や漫画家、脚本家等の物書きとして成長していくと思います。
シカゴに住んでいたヘンリー・ダーガーは、これといった特徴もなく身寄りもなかったため長年に渡り掃除夫として教会で働き、教会とアパートを往復するだけの寂しい孤独な老人でした。 人とコミュニケーションを取る事はほとんどなく、浮浪者のような格好をして部屋で色々な声色を使って喋っている「変人」であったといいます。 そんな彼が衰弱して施設に入る事になったある日、ヘンリーはアパートの大家に頼み事をします。
「部屋にある私の持ち物を全て焼いて欲しい」
身寄りのない老人の持ち物。残しておいても困るので大家はヘンリーの部屋に入り、大変な物を発見してしまいます。 それは、タイプライターで書かれた15,145ページに及ぶ壮大な1つの小説と300点もの挿し絵でした。 そう、ヘンリー・ダーガーは、書き続けた部類の人でしたが、彼は孤独なアパートで19歳から60年以上に渡って「1つの物語だけを書き続けた」数少ない人です(というか、他にいるんだろうか?)。
彼自身にはそれが「作品である」という認識は亡かったようですが、それは世界最長の小説でありアートでもあった事は紛れもない事実。 「非現実の王国で」と書かれたタイトルの物語は2つの国の戦争物語でしたが、人間離れした能力を持つ敵に立ち向かう7人の少女達を描いたSFファンタジーのような物でした。
孤独で女性を知らないヘンリーだったからか、少女の股間にはあるはずのない物が付いていたりして、それがまた見る者にとって狂気を増長させたりもするんですが、ヘンリーの死後に「非現実の王国で」の存在が明かされると、この孤独な老人が生涯をかけて書いた小説は一躍注目を浴びる事になります。
ヘンリーにとって脚光を浴びた事がいい事だったかは分かりませんが、やはり闇に埋もれてしまうよりは賞賛されるべき作品だったんじゃないでしょうか。 「非現実の王国で」は、ドキュメンタリー映画にもなっているようです。興味が沸いた方は見てみてはいかがでしょうか?
変人が偉人に変わる時
以上の3人は、間違いなく変人ではありますが「何かを成し遂げた」人達です。実際、彼等はその後大きな賞賛を受けています。
どんなに変わり者の人でも、何かを本当に突き詰めると、偉人になれるのではないでしょうか? 彼らが情熱を向けた方向は様々で、歪んだ部分は確かにありますが出来上がった物は「本物」でした。
人は情熱と根気で誰しもが素晴らしい物を造る事が出来る。 過去の変人、いや、偉人に学ぶ事は多そうです。